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8月15日に、日本代表VSオーストラリア代表の試合が、ワールドカップ開催会場である静岡スタジアムで行われました。私はTVで観戦したのですが、非常に蒸し暑い上に、5万人の観客の熱気で、なんだかロケーションもやっていましたね。

この試合は、アジア・チャンピオン(日本)とオセアニア・チャンピオン(オーストラリア)のチャンピオン同士による公式戦(国際Aマッチ)です。日本代表は、中田英寿(イタリア/パルマ)、小野伸二(オランダ/フェイエノールト)、稲本潤一(イングランド/アーセナル)、西澤明訓(イタリア/ボルトン)、高原直泰(アルゼンチン/ボカ・ジュニアーズ)、廣山望(パラグアイ/セロ・ポルテーニョ)らの海外クラブに所属している選手たちを、呼び戻しませんでした。FIFA(国際サッカー連盟)の規定では、各国代表の国際Aマッチには、たとえ海外のクラブが収集に反対しても、最低年間7試合は強制的に呼び戻すことができるのですが、その権利を行使しなかったわけです。

一方のオーストラリア代表も、イングランドのリーズ・ユナイテッドで活躍しているハリー・キューエルとマーク・ビドゥカをはじめ、ヨーロッパで活躍している選手たちをほとんど招集しませんでした。それでは両チームとも中心メンバー抜きの試合ではないか、ということになるかもしれませんが、こうした機会に、新しい戦力の上積みを図ることが、たいへん重要なことなのです。

試合の方は、前半に柳沢敦(鹿島アントラーズ)のゴールで、後半に服部年宏と中山雅史(ともにジュビロ磐田)のゴール(=中山のゴールは柳沢が蹴ろうとしていたPKでしたね)で3-0で勝利を収めました。せっかくの国際試合ですから、勝つに越したことはありません。しかもこの試合は、アジア・サッカー連盟とオセアニア・サッカー連盟による公式戦だったのですから。しかしそれ以上に重要なのは、どれだけ戦力の上積みができたか、どれくらい選手層が厚くなったかを、確認することです。

1993年10月、アメリカ・ワールドカップのアジア最終予選で、日本はあと30秒でワールドカップ初出場を逃しました。あの「ドーハの悲劇」です。あの時、痛切に感じたのは、選手層の薄さでした。相手に徹底的に研究されたり、メンバーに怪我人が出たり、コンディションや調子が落ちたり、そんな時、必ずバックアップメンバーの力が必要になります。選手層の厚さがモノを言うわけです。あれから8年の時間を経て、日本代表の選手層は、確かに一定水準に達したと言えるでしょう。

オーストラリア戦をご覧になった方もいらっしゃると思いますが、皆さんの中でMVPは誰でした? 試合開始後の決定的なピンチを防いだGK(ゴール・キーパー)の川口能活(横浜F・マリノス)? 先制ゴールを決めてチームを波に乗せた柳沢? 前線で動き回って攻撃の斬り込み役を果たした森島寛晃(セレッソ大阪)? 私は、この試合のMVPは間違いなく服部だと思います。2点目のゴールを決めたからではありません。ゴールがなくても、MVPは服部です。

服部はこの試合で、小野や中村俊輔(横浜F・マリノス)がしばしば起用される左アウトサイドで先発出場しました。このポジションには、間もなく日本国籍を取得して間違いなく日本代表に選ばれるであろう、アレックス(清水エスパルス)もいます。服部以外の3人は、いずれも主に攻撃の中心になる(攻撃が得意な)選手たちです。割と目立つ役割です。それに対して服部は「守備の人」というイメージ、どちらかと言えば「黒子」のイメージを持たれがちです。しかし、この試合での服部は、左サイド(オーストラリアから見ると、右サイド)を完全に制圧したばかりか、果敢な攻撃姿勢・攻撃センスと技術・技巧の高さを見せつけました。

1点目の柳沢のゴールは、右サイドを森島が突破した折り返しを決めたものですが、森島の折り返したボールに対して、柳沢とクロスするように、猛然と左サイドからゴール右へ向って斜めに走り込んでくる服部の動きなくしては、語ることができません。服部は、オーストラリアの選手を2人も引き連れて走り込んできました。それによって、柳沢はオーストラリア・ゴール前でフリー(ノー・マーク)になることができたのです。

服部自身が決めた2点目も、左サイドをドリブルで攻め上がり、中央に居た柳沢とワン・ツー・リターンを決めて中央に進出し、効き足ではない(服部はレフティーです)右足で、カーブのかかった美しいシュートをゴール隅に決めました。服部は、ずっとジュビロ磐田でプレーをしていますが、海外でも充分活躍できる選手です。一面的な派手さはありませんが、非常に重要な存在なのです。

サッカーの試合を観ていると、ゴールを決めた選手や、中田や小野のように、いかにも攻撃における中心的存在の選手、速いドリブルを見せるなどして、いかにも突破力のある選手、センタリングやFK(フリーキック)で正確なキックや凄いキックを見せる選手、素晴らしいゴール・セービングを見せるGKのように、いかにも「目立つ」プレーをする選手にばかり目が行きがちです。でも、服部のように、どちらかと言えば「地味」な存在ですが、チームの中で「効いてる!」という選手が必ずいるものです。そんな選手に気づくことができるようになったら、もっともっとサッカーが楽しめますよ。

もう1つ、オマケです。
日本では、チームスポーツではどんなスポーツでも「守備の人」という表現が使われることが結構ありますよね。

しかし、攻守・攻防が一体となった戦いであるサッカーでは、「守りの仕事」だけをしていては、試合に起用されるチャンスは非常に少なくなります。最終ライン(GKの前のディフェンス・ライン)で起用されても、あるいは、中盤での守備を主な役割(いわゆる「守備的MF(ミッドフィルダー)」と呼ぶ人がいます)を指示されたとしても、相手の攻撃を防いでばかりいるのが仕事ではありません。相手の攻撃を防ぐ、相手からボールを奪う…その瞬間が攻撃の始まりなのです。奪ったボールをいかに有機的にチームの攻撃に結びつけていくかという能力が、守りの能力に劣らないくらい重要なのです。それらは、(攻撃の)ビルドアップとか、(前線への)フィードとか、展開力などと言ったりして、非常に重要視されています。

また、「深い位置」(自軍のゴールに近い位置。守備的な位置)にいても、目の前にポッカリとスペースが空いていたら、最終ラインからでも相手ゴールに向って飛び出していきます。最終ラインの選手が相手ゴール前にまで行くのは、何もFKやCK(コーナー・キック)などの「セットプレー」での飛び込みだけではありません。いつでも、隙があれば、「守備の人」であっても、ロングシュートやミドルシュートを放つ、相手ゴール前まで侵入してゴールを落とし入れる、そんなオールマイティな能力を兼ね備えていることが必要になります。

日本人選手も、以前は「守備だけの人」が多かったような気がしますが、最近はようやく、「攻撃力を持った、守備が仕事の中心の人」=「主に守備的な役割だけれども、攻撃力も備えている人」が増えてきたように思います。それもまた、日本のサッカーが国際標準レベルをどんどんクリアしていっている証の1つのような気がしています。攻撃は、「前のほう」の選手たちだけで行われるものではないのです。どんなビルドアップやフィードがなされ、チームとしての展開力が発揮されているか、そんなあたりにも視線をやっていただけると、また一段と「観戦力」がアップすると思いますよ。
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