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今シーズンのイタリア・セリエAで、ローマからパルマに移籍した中田英寿が苦闘を続けています。

開幕戦はアウェイでのレッチェ戦に辛くも1-1のドロー。第2戦のホームでの強豪・インテル戦に、またしても辛くも2-2のドロー。そして第3戦、アウェイでの古豪・ボローニャ戦には、0-1の敗戦。3試合を消化して、2引き分け1敗、勝点は、わずか2ポイントという苦戦ぶりです。

海外では、メディアが各選手を採点するのが常です。イタリアでは、10点満点で採点しますが、及第点は6点か6.5点です。目に付く活躍をすれば7点か7.5点。大活躍をすると8点か8.5点です。超・大活躍で9点でしょうか。10点満点が付けられることは、まずありません。近年では、あるチームのGK(ゴールキーパー)が、相手チームのFW(フォワード)の選手が試合中に心臓発作で倒れたの見て、人工呼吸で救ったことがありました。その時、そのGKに10点満点が付けられたと記憶しています。

中田はこれまで平均して6点台ですので、安定したプレーぶりに定評のあるところです(トッププレイヤーの平均は、大体6点台の半ばですから)。もちろん、8点が付けられたことも何度もあります。また、どんなに悪くても、せいぜい5点が最低でした。

ところが、インテル戦でのガゼッタ・デロ・スポルト(イタリア最大のスポーツ紙)では、何と4.5点という実に厳しい採点でした。選手たちは、メディアの採点のためにプレーしているわけではありませんから、このような採点は最重要事項ではありません。ましてや、メディアによって主観が入りますので、採点は客観的な数字ではありません。しかし、それにしても4.5点とは、とんでもなく厳しい採点です。4点とか4.5点というのは、チームの足を引っ張ったとか、致命的なミスを犯した選手に付けられる採点なのです。
ガゼッタ・デロ・スポルトは元々、中田に対しては、創造的なプレーを期待している論調が感じられていますので、よけい厳しい採点になったのでしょう。

しかし、これらは中田1人の調子が悪いことによるものではなく、パルマというチーム自体が、非常に悪い状態にあることによるものです。イタリアのビッグクラブの1つであるパルマですが、今シーズン前に、何人もの主力選手を放出(他チームへ移籍)しました。元々、戦力ダウンが心配されていたのです。チーム若返りの過渡期にあることは事実です。
ボローニャとの一戦をTVで観ても、正直言って、先行きが心配です。このような調子と内容だと、2部(セリエB)への降格争いに顔を出すかもしれません。それくらい、悪いです。

パルマは、3-5-2(DF(ディフェンダー):3-MF(ミッドフィルダー):5-FW(フォワード):2)というシステムを採用しています。MFの5人は、1人がFWのすぐ下(いわゆる「トップ下」。「1.5列目」とも言われます)が中田、中盤の底(DFの前。「2.5列目」とも言われます。)に2人、左右のウイング(ウイングバック)に2人という構成になっています(このような細かいシステムまで表すために、「3-4-1-2」という表記を用いる専門メディアもあります)。

今のパルマは、まず、中盤の底での相手選手へのプレッシャーが非常にルーズです。ですから、最終ライン(DFライン)までスパスパと相手選手に入られてしまいます。また、3人のDFラインのポジショニングと連携も、非常に悪い感じがします。
こんな状態では、危なくて攻撃どころではありません。「トップ下」の中田も、中盤での守備に追われますし、中盤の左右ウイング(ウイングバック)も、後ろ(自軍ゴール側)に引っ張られて、相手ゴール前に迫るような攻撃を仕掛けたり、攻撃の起点になることができません。そうなると、余計に相手チームに攻勢を保つ流れを与えてしまいます。
フットボール(サッカー)は、攻防(守備と攻撃)が一体となった競技ですので、後ろ(守備)が不安定では、攻撃の形が作れないのです。ですから、チーム作りは、まず守備を整えることから始まります。パルマには、まず、その点が緊急に改善される必要があるでしょう。

パルマに攻撃の形が見られないという批判が、イタリア国内はもとより、日本のサッカーファンからも上がっています。その矢面に立たされているのが、「トップ下」で「背番号10」の中田です。
先に述べたように、パルマの不振は中田1人責任ではないのですが、「背番号10」を背負った選手というのは、それだけ厳しい批判(非難)に晒されるものです。もし中田が、ペルージャ時代の「背番号7」だったり、ローマ時代の「背番号8」だったら、「トップ下」で出場していても、ここまで厳しい批判には晒されなかったかもしれません。現代フットボールの「エース」、チームの「顔」を意味する「No.10」は、それだけ重いということでしょうか。何しろ、世界的にはフットボールの強豪国ではない日本からやって来た選手が、イタリアのビッグクラブの「No.10」を背負っているのですから。

ただ、中田に対しても、私たちから希望があります。外からあれこれ言うのは容易いことで、本人には不満とは思いますが。

中田は、「トップ下」での「ゲームメイク」(攻撃の司令塔)を得意なプレースタイルとしていますし、その役割を与えられた時の中田のプレーの冴えは、世界的に定評のあるところです。
しかし、別稿でも書いたように、現代フットボールでは「トップ下」という役割を置かない戦術をとるケースが大部分となってきています。そんな潮流の中で、「トップ下」を置いた場合には、そこで出場した選手には、「ゲームメイク」というよりも、1.5列目から最前線に飛び込んでゴールを上げる(得点する)ことが、なお一層求められる傾向にあるのです。言い換えると、現代フットボールにおける「トップ下」は、「セカンドストライカー」あるいは「シャドーストライカー」であることが求められる傾向にある、ということです。

ちょうど、イタリアのユベントスからスペインのレアル・マドリッドに移籍したジネディーヌ・ジダン (フランス)が、やはり中田と同じような苦闘を続けています。スペインのリーガ・エスパニューラで、レアル・マドリッドは3試合を消化して1引き分け2敗。ジダンは、当然凄まじいバッシングの嵐に晒されています。「トップ下」のジダンにボールは収まるのですが、その後、ジダンが繰り出すスルーパス(ラストパス)に、味方選手たちが相変わらず「合わない」というのです。

そんな現代フットボールの変容の渦中にいる中田には、是非、自らゴールする意思(意志)と、自らエゴイスティックに相手ゴールに迫る創造性を、期待したいと思います。

パルマ所属のアルゼンチン代表のマティアス・ヘスス・アルメイダは、中田のことを「自分を犠牲にすることも知っている選手だ」と高く評価しているようです。そのような持ち味も中田の長所・特性ではありますが、もっとエゴイストになって欲しいという希望があります。

これからも苦闘が続くであろうパルマの試合を、私たちは毎週、日本から観続けていきますから。
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