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4月29日と5月2日、日本代表は2連戦を行いました。TVで観戦された方も多いと思いますが、日本代表のパフォーマンスは、皆さんにはどのように写ったでしょうか。

4月29日の東京・国立霞ヶ丘競技場でのスロバキア戦は、おもしろい実験を見させてもらいました。西澤明訓の1トップの下に、森島寛晃と中村俊輔の2人を配置(1トップ+2シャドーもしくは、西澤の1トップに森島がセカンドストライカーで中村がトップ下)して、右ウイングバックに柳沢敦を、左ウイングバックに三都主アレサンドロを配したのです。本来はFWの柳沢を右サイドに入れるとは、おもしろい試みでしょう。もっともこの場合は、「右ウイングバック」というよりは「右サイドハーフ」。攻防一体のフットボールですから、当然、右サイド(相手から見れば左サイド)の相手の攻撃に対するディフェンス面はリスキーになります。リードされて試合終盤を迎えた時の、超・攻撃的布陣ということでしょうし、仮にリードされた状況であっても、ワールドカップ本番で使われる可能性はそんなに高くないと思います。それよりも、日本をスカウティング(偵察)しているであろう各国への情報操作もあったかもしれません。

試合のほうは1-0で勝利しましたが、何度もの決定的なチャンスに決められないという、相変わらず不満が溜まる試合でした。本来のバランスを崩してあえて新しい試みにトライしてみた部分があるとはいえ、こういう試合展開ならば、少なくとも2〜3点は奪ってみせられるのが、プロフェッショナルというものでしょう。そんなあたりの成熟度も、イマイチかなあと感じます。

5月2日の神戸ウイングスタジアムでのホンジュラス戦は、常に先行されて同点に追いついての3-3という、TV的にはおもしろい試合になったのではないでしょうか。先行されて追いかける試合展開を経験しておいて欲しかったので、その点では理想的な「テストマッチ」になったと思います。

ワールドカップのメンバーに入って欲しいと多くの方々が望んでいる中村俊輔(俊輔は、大人ばかりか子どもたちに絶大な人気があるらしいですね。もちろん、私も高校生の頃から見続けている選手の1人ですが)のFK(フリーキック)とCK(コーナーキック)からの直接ゴールは、観客を熱狂させました。

ホンジュラスはワールドカップ本大会には出場できなかったものの、強豪です。そんな相手に対して、私は試合開始早々から「日本のプレスがかからないなあ」と感じました。案の定、前半だけで3失点です。最終ラインの「フラット3」と「中盤の底」の間に不用意にスペースを与えてしまい、「フラット3」特有の浅いライン(ラインを積極的に押し上げる戦術)をかなり破られてしまいました。
また、私には日本の左サイド(ホンジュラスから見れば右サイド)のポジショニングが悪く思えました。そこからも、何度も突破を許してしまいます。
そして、守備における1対1の局面で、世界のスピードに何度も抜かれてしまいます。これに対抗するにはどうしなくてはならないかすでに明確なのですが、少しでもチーム全体のバランスや機能性、適応性、ポジショニング、プレスや囲い込みのタイミングがズレると、ワールドカップ本大会でも、こんなシーンを目にしてしまうことになるでしょう。この日のようなパフォーマンスだと、確かに攻撃力が高いチームも、それほど破壊的な攻撃力を持っているわけではない国もあるわけですが、どんな相手であれ、相当の失点を覚悟しなくてはならなくなります。

後半はまったく危険なシーンもなく、「後半は修正できた」「後半はホンジュラスを圧倒していた」とする向きもあるようですが、私にはそうは思えません。ホンジュラスは、明らかに後半はペースダウンしていましたから。

日本のディフェンス面の不安を書きましたが、これは「フラット3」や「中盤の底」の選手たちの問題ではなく、あくまでチーム全体の問題です。仮に、いくら最終ラインに世界最強メンバー(?)を揃えたとしても、中盤やサイドから(攻撃の形を)作られてしまっては、ガンガンやられてしまうものです。それがフットボールです。その点を間違えないようにしたいものです。

一方で、ホンジュラス戦での攻撃面はどうだったでしょうか。確かに3点とりました。が、いずれもセットプレーの得点です。もちろん、相手ゴール前でのセットプレーは大きなチャンスです。今日では、全得点の半分近くがセットプレーからのゴールといっても過言ではないでしょう。ですから、セットプレーからゴールを奪えるというのは、たいへん大きな武器なのです。ましてや、相手ゴール前でFKやPK(ペナルティキック)を得るのも、それだけ相手を危険な状態に陥らせつつあるから獲得できるのですから。
相手ゴール前でのセットプレーは、転がり込んでくるものではなく、自分たちの仕掛けによってこそ獲得できるものなのです。

しかし、セットプレー以外からの、いわゆる「流れの中からの」得点チャンスは、相変わらずモノにできません。相手の厳しいチェックの前にシュートすら放つことができない場面も多すぎます。後半はホンジュラスのペースダウンによって決定的なチャンスを作り出すこともできましたが、肝心のシュートがゴールマウスをとらえられない(ゴールの枠を外してしまう)シーンが多すぎます。それに、「シュート撃て!」という場面でシュートしないことも多いです。これは、それこそ何年も前から指摘されていることなのですが、なかなか変わらないものです。

さて、いよいよワールドカップまで1ヶ月を切ってしまいました。
私は、日本代表にはセンセーショナルを巻き起こす力があると思っていますが、その力を発揮できるかどうかが大きな壁でしょう。場数も経験も成熟度も充分ではありません。

現在、国際舞台でコンスタントに活躍しているのは、中田英寿と小野伸二の2人だけです。前回1998年のフランス大会後の4年間に、少なくとも4人の選手が国際舞台で活躍していることを期待していたのですが、叶いませんでした。ピッチでプレーする11人のうち国際経験豊富な選手が4人いれば、チーム全体の成熟度も落ち着きも、はるかにアップしてくれると想像していたからです。

ワールドカップには今回が2度目の出場で、しかも1勝も、1ポイントの勝ち点も奪ったことがないチームが、やはりワールドカップには今回が2度目の出場で、やはり1勝もしたことがない(フランス大会で南アフリカを率いて2引き分け1敗)監督とともに挑むのです(私はトルシエ監督に否定的なのでも、不安を感じているわけでもありません。素晴らしい仕事をしてくれていると思っています。歴史的な事実を言っているだけです)。

フットボールは、「その国の力が反映されるスポーツ」と言われます。日本人にしてみれば、何とも大袈裟な、とても理解できない言葉でしょう。が、長年見続けてきて、確かにそうした一面を持っているように思えるのです。
戦うのは選手たちだけでなく、私たちも目に見えない力を発揮することが必要です。「12番目の選手」として。

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