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小野伸二が最近あるインタビューで「ゲームをコントロールできれば、どのポジションでも司令塔だ」というようなことを語ったそうです。さすがに1年間ヨーロッパでもまれただけあって、素晴らしい言葉を口にするようになったと思います。

日本のマスコミは、小野や中田英寿や中村俊輔や小笠原満男を取り上げる時に、盛んに「司令塔=トップ下」というフレームで記事を構成します。あたかも「トップ下」(こそ)がチームの中心であるような、あるいは、ゲームメイクをするのは「トップ下」(だけ)であるかのような、そんな誤解を招く表現です。

では、「トップ下」を置かないシステム(戦術)だったら、ゲームメイクを放棄しているのか? そんなわけありません。「トップ下」を置かなかったら、「守備的」な戦術を採用しているのか? そんなわけありません。これまでも何度か書いてきたように、今日の世界のフットボール(サッカー)では、むしろ「トップ下」を置かない、あるいは「トップ下」がゲームメイクよりも別の役割(その多くがゴールを狙う役割ですが)を果たす、そういう戦術も多いのです。

フットボールのシステム(フォーメーション)は、「はまると実に面白いですよ」と以前書きましたが、システム(フォーメーション)というものは、あくまで静的に11人(GKを除くとフィールドプレイヤー10人)を並べてみた基本的な「形」に過ぎないものです。前の方(相手ゴールに近い方)に配置した選手の数が少ないからといって、「守備的」とは言えません。また、同じシステム(フォーメーション)であっても、同じ位置に違う選手が入ったら、チームとしてのやり方とか、ボールの動き方も変わってくるわけです。例えば「トップ下」に中田英寿が入る場合と森島寛晃が入る場合では、自ずと変化が出てくるわけです。

要は、システム(フォーメーション)が選手の動きを規定してしまうのではなく、基本的なチーム戦術(その1つの表れ方がシステム(フォーメーション)とも言えるでしょう)の中で、選手たち1人1人の個性や能力やイマジネーションが発揮されていく…それがフットボールなのです。ポジションとかチームの中における役割ということに関して、静的・固定的に考えてしまいやすい我々日本人ですが、こういう広く柔軟な視点・視野でフットボールを観戦したいと思います。

かつてのスーパースター、「皇帝」フランツ・ベッケンバウアーが、こんな素晴らしい言葉を残してくれています。
「肝心なことはシステムが選手を動かすのではなく、選手がシステムを作るということである。フレキシブルな対応ができるチーム、1つのやり方だけではなく様々なシステムが使えるチームが理想である」

DF(ディフェンダー)についても、自軍ゴール前の最終ラインだからといって、「守り」(相手に得点を上げさせないための、いわば専守防衛)だけしていればよいのではありません。ボールを奪ったら、いかに攻撃を組み立てるのか、次にどんな展開をしていくのか、どうすれば展開や攻撃の起点となるのかが、直ちに連動的に実行できなくてはならないのです。「ビルドアップ」とか「ロングフィード」と呼ばれる能力は、今日のDFには必須です。前にスペースがあれば、最終ラインから押し上げていく、場合によっては相手ゴール近くまで迫ってゴールをおとしいれるような、そんな臨機応変の能力、想像力も持っていて当然なのです。DFが相手ゴール前に迫るのは、相手ゴール前でのセットプレー(FK=フリーキックやCK=コーナーキック)の場合だけではありません。

また、日本のマスコミは「中盤の底」(ボランチ)のことを「守備的な中盤」と相変わらず表現しますが、単に「守備をする人」といった感じがするこの表現に、私は違和感があります。今日では「中盤の底」は、主に攻撃の形を作る「ゲームメーカー」とは区別して、より広い意味でチーム全体をコントロールする「プレイメーカー」と呼ばれることもある、重要な役割です。「守備的な中盤」といってしまっては、そんな意味が伝わってきません。

「トップ下」にしても、「ゲームメーカー」というよりも、「セカンドストライカー」(2列めから飛び込んでゴールを奪う役割)であったり、「チャンスメーカー」の役割の場合もあります。日本のマスコミが、「中盤の底=守備的な中盤」「トップ下=司令塔」「司令塔=トップ下」と単純に定義付けしてしまって、フットボール観戦に固定的な枠組みを当てはめてしまう傾向があることに不満を感じています。

全員がゲームメイクできる能力を持っている…全員が展開力を持ち、攻撃の起点となれる能力を持っている…そんなボトムアップが存在することが、チームとしての成熟度・底力の1つとなるのです。

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