2002.9.16 【インタビュー】
  日本人選手海外組…それぞれの活躍と今後の課題
  −Part1−
 

LADYWEB 海外リーグに渡った日本人選手の活躍が、連日報道されていますが、KOH先生から見て、各選手の状態はいかがですか?

KOH先生 オランダのフェイエノールトにいる小野伸二は、1年間を通していちばん安定した活躍をするんじゃないでしょうか。チャンピオンズリーグでトルコのフェネルバフチェ戦で決めた2ゴールはもちろんたいへん素晴らしいゴールで、あんなプレーができるというのは、素晴らしいです。先のワールドカップではコンディション不良で不本意な大会に終わってしまったと思うのですが、それを払拭する活躍を見せてくれそうです。

ただ、今シーズンのフェイエノールト自体はあんまりよくないですよ。昨シーズンは、1トップのファン・ホーイドンクの下にデンマーク代表のトマソンがいて、トマソンは位置的にはトップ下だけど、ゲームメイカータイプのトップ下ではなくて、シャドーストライカータイプのトップ下なんですよ。それで、うまくやっていたんです。そのトマソンがイタリアのACミランに移籍して、その代わりにルーリングというオランダ人の選手を獲得したんですけど、どうも良くないんで、彼をトップ下に置かないで左のウィングに置いているんです。で、トップ下は残念ながら小野ではなくて、カルーというコートジボアール代表の選手を置いたり、他の選手を試したりしています。でもカルーはトップ下に入っても、シャドーストライカーとしてトップを追い越していってゴールを奪うという感じじゃない、ドリブラーっぽいんで。どちらかというとサイドアタッカーではないでしょうか。昨シーズンのトマソンの役割が埋め切れていない感じがします。

トマソンがいなくなって、なんで小野がトップ下で使われないかということなんですが、例えば最近の中田英寿について考えてみると、その辺りが少し見えてくるように思います。
中田について、日本のニュースソースを見ている限りでは、今のパルマの監督が「彼はファンタジスタではない」といったのか「トップ下ではない」といったのか、とにかくトップ下では使ってもらってないですよね、本当はどういう表現をしているのかわからないですけど。パルマはトップ下を置かないフォーメーションなんですが、まれにトップ下を置いた場合でも、確かにトップ下では使ってもらっていないようです。日本のメディアはすぐに「トップ下落第」みたいな表現を使いますけど、別にそういことではないと思うんです。トップ下よりも、いわゆるミッドフィルダーで使おうということだと思うんです。トップ下ってイタリア語では「トレクァルティスタ」っていうんですが、トップ下よりも1列下の中盤のことを「チェントロカンピスタ」っていいます。サイドではなくセンターミッドフィルダーのことです。
日本のメディアは中盤のポジションについて、すぐ「トップ下かボランチか」みたいな書きかたをします。しかも、ボランチを「守備的な中盤」と言ってしまって、あたかも守備の選手のような書き方をします。でも、イタリアとかには日本で言うようなボランチの概念はないようですよ。トップ下つまりトレクァルティスタか、中盤つまりチェントロカンピスタか、っていう概念のようです。中田の場合はもともと、トップ下もできるけど、もっとスケールの大きな、いわゆるプレイメーカーもできる選手になる可能性を持っているわけです。これまでイタリアで中田を見てきた指導者たちの多くが、そのような意見を口にします。

以前は、チームの中心というのはゲームメーカーといわれるトップ下の選手だったと思うんですが、現代フットボールはさらに一層攻守の切り替えも早く、プレッシャーもきつく、どのチームもトータルフットボールを展開しますので、トップ下はもう存在しない時代になりつつあります。トップ下を置いたとしても、トップ下の選手には得点を取る役割が求められるようになっていると思うんです。
ゲームメーカーというのは、試合のタクトを振る、コンダクターの意味になりますけど、フットボール的にはゲームメーカーというのは「攻撃を掌る」という意味なりニュアンスが強いですね。ところが現代フットボールでは、攻撃だけじゃない、チーム全体のバランス、全体の指示、守備とか後ろも含めてチーム全体をコントロールする存在が必要になってきた、そういうのをゲームメーカーと区別するためにあえて「プレイメーカー」「プレイメイク」というようになっています。プレイメーカーはトップ下ではなくて、もう1つ下。日本でいうボランチというか、ヨーロッパでいう中盤、センターミッドフィルダーがやる。プレイメーカーとして代表的なのが、ワールドカップには怪我で出ませんでしたけど、スペインのグアルディオラですよね。グアルディオラは、今シーズンからイタリアのローマでプレイします。ちょっと前だとブラジルのドゥンガですよね。そういうプレイメーカーが今日ではトップ下よりも大事だ、という認識になってきているところがあります。

今日のフットボールシーンはそういう感じなんで、トップ下をやらされないからといって、中田は別に能力がないと言われたわけじゃないんですよ。むしろ、トップ下というのはゴールを落とし入れる役、あるいは「ファンタジスタ」という言葉があるように、イタリアのバッジョとか、中村俊輔も今ファンタジスタと一部では呼んでもらったりもしていますけど、一人で相手の守備網をこじ開けてゴールに直結するプレーをする選手、というのがトップ下のイメージなんじゃないでしょうか。
だから、小野もトマソンがいなくなって、じゃあトップ下やるかっていったら、今のフェイエノールトのシステムでは、トップ下というのはシャドーストライカー、セカンドストライカーといった、点取り屋というニュアンスが強いので、小野もゴールは取りますけど、ペナルティーエリアの中でゴールを取るというスタイルではないから、やっぱりちょっとタイプじゃないかなって感じなんでしょうね。
もうひとつは、小野がトップ下じゃなくもう1つ下がって、そこにいる方がフェイエノールト全体のボールの動きがすごくいいんですよ、これはもう昨シーズンから。小野が中盤の底にいた方が、あきらかにボールがよく回るんですよね、流れがいいんです。それを見れば、チームとしては、小野はそこにいてもらったほうがいいなって間違いなく思うでしょうね。
小野がトップ下で起用されなくて残念に思う向きもあるとは思うんですが、ヨーロッパなんかでいうトップ下と、日本でいうトップ下はちょっと違うと思うんです。日本でもトップ下のいい選手が、若い選手、例えばU-21でも京都パープルサンガの松井大輔とか、コンサドーレ札幌の山瀬功治とかいますけど、山瀬は点を取るタイプのトップ下だけど、松井はゲームメーカータイプですよね。鹿島アントラーズの小笠原満男もそうですよね。小笠原にヨーロッパへ行ってトップ下で点取ってこいといわれても、ちょっとタイプ的に違うかもしれないですよね。
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