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さあ、いよいよヨーロッパのフットボール・シーンの新シーズンが開幕しました。
小野伸二(フェイエノールト)がプレーするオランダ・リーグ「エールディビジ」、中田英寿(パルマ)がプレーするイタリア「セリエA」、そして稲本潤一(アーセナル)と西澤明訓(ボルトン)がプレーするイングランド「プレミアシップ」、どれも目が離せません。

小野は、スタメン出場はまだ果たしていないものも、途中出場で好調なプレーを見せてくれています。が、先日のアヤックス戦でも感じましたが、「本番はこれから」という感じでしょうか。これまでのような自由なプレーは、なかなかさせてくれないでしょう。その中で、やはり前線で起用されているのですから、ゴールの1つや2つあげてみせることが必要になるでしょう。小野はストライカーではなくゲームメイカー、チャンスメイカー(そして時にゴールも)であることはわかっています。しかし、海外でプレーするからには、当然厳しい目にさらされるわけですし、チームにどれだけ明確に貢献しているかが求められるでしょう。そのためにもっとも手っ取り早いのは、ゴールをあげることです。何も、チームの得点王になるというのではありません。中田がかつてイタリア「セリエA」のペルージャでシーズン序盤に数々のゴールをあげてチーム内外の信頼と地位を獲得したように、小野も、ゴールという手段によって、チームの中心的存在になって欲しいと思うのです。

一方の中田は、パルマのNo.10(背番号10)を背負ってのシーズンインですが、開幕戦(アウェイでのレッチェ戦)を見たところでは、「ウ〜ン」という感じです。中田の出来云々ではなく、チーム全体として、相当厳しい戦いになるでしょう。

さて、スペイン・リーグの「リーガ・エスパニョーラ」では、名門チーム、レアル・マドリッド(以下「レアル」)の開幕戦の戦いぶりに注目していました。何しろ、昨シーズンは60億円もの移籍金でルイス・フィーゴ(ポルトガル代表)を獲得し、さらに今シーズンは80億円もの移籍金で、現在世界最高の「トップ下」(*)であるジネディーヌ・ジダン(フランス代表)を獲得したのです。

*「トップ下」の選手は、これまで、チームの攻撃の中心として、ゲームメイク(=攻撃を形作る)、ラストパスの供給、そしてゴールもあげるという花形でした。「ファンタジスタ」(ファンタジーを生み出す選手)とも称され、No.10(背番号10)を付けることがしばしばです。しかし、現代フットボールは、「トップ下」を置かないシステムが主流になっています。ひとりの特定の選手が攻撃の核になるのではなく、トータルに攻撃を仕掛けるという感じです。なにしろ相手チームが「トップ下」を徹底的にマークし警戒してくることは目に見えているのですから、「トップ下」に依存していては攻撃が機能しなくなる場合が多いためです。

現在、世界で「トップ下」の選手として知られるのは、ジダン、ルイ・コスタ(ポルトガル代表)、リバウド(ブラジル代表)、そして中田などが挙げられています。もちろん、彼らのプレースタイルやプレーエリアは、それぞれ異なりますが。また、「トップ下」の存在が少なくなった中で、No.10もチームによっていろいろなポジションや役割の選手がつけるようになっていますし、チームの中心選手が必ずしも「トップ下」の選手というわけでもなくなっています。

レアルは、他にも各国の代表チームのレギュラーがずらり。スペイン代表は、フェルナンド・イエロ、ラウール・ゴンザレス、フェルナンド・モリエンテス、イバン・エルゲラをはじめ目白押し。ブラジル代表も、左サイドのロベルト・カルロスもいれば、フラビオ・コンセイソン、サビオなど。イングランド代表のスティーブ・マクマナマンもいます。なんとまあ、豪華絢爛なことでしょう。

さて、そんな豪華戦力を保有しても、簡単に行かないのがフットボール(サッカー)です。レアルの基本システムは「4-4-2」(DF:4−MF:4−FW:2)ですが、中盤で攻撃的MFを務めるフィーゴに加えて、さらに「トップ下」のジダンも加入したことで、今シーズンはどんなシステムで戦うのか注目していました。これまでと同じ「4-4-2」で行くのか(それだと、フィーゴとジダンが「かぶって」しまう? フィーゴとジダンのプレーエリアが全く同じというわけではありませんが、それでも間違いなく「かぶり」ます)、それともシステムを変更するのか、あるいは、一応「4-4-2」システムにして中身を変えるのか。

開幕戦を見た限りでは、「4-4-2」システムでありながら、これまでとは違う中身で臨んでいるように思われました。しかし、ジダンもフィーゴも、持ち味を発揮できているとは言い難い感じでしたし、左サイドのロベカル(ロベルト・カルロス)も得意のオーバーラップがしにくそうに思われました。私の印象では、サイド攻撃を含めて、2列目からのワイドな攻撃が影を潜めた印象を持ちました。

結局、フットボール(サッカー)は、「自分の仕事をするスペース」「自分のパフォーマンスを行うスペース」が非常に重要なのです。「4-4-2」とか「3-5-2」とか、いろいろなシステムがありますが(システムについての詳しい話は、また今度)、それはあくまで基本形であって、実際にはきわめて流動的に動きます。右サイドの選手が左サイドまで動いきたり、中央の選手がサイドに開いたり、サイドの選手が中に切れ込んできたり。2列目・3列目の選手がどんどん槍のように飛び出してきたり、味方選手が動いたスペースに他の選手が入ってきたり、全体が渦のように変化するのです。しかも、変化しながら非常に全体のバランスが求められる…それが現代サッカー「トータルフットボール」です。

*ちなみに、日本代表の現在のシステムは「3-5-2」です。トルシエ監督が就任する以前は「4-4-2」でした。トルシエ監督が採用する「3-5-2」システムは、DF(ディフェンス)の3人が「フラット・スリー」と呼ばれる高等で攻撃的な戦術をとります。攻撃的な分、リスクもあるディフェンス・ラインのため、コアな(ディープな)サッカーファンの間では、「フラット・スリー是非論争」が絶えません。

そんなトータルで流動的・有機的な動きが展開されるわけですから、新しい選手が加入すると(それがビッグネームであれば、なおさら)チームのバランスが崩れたり、機能性・機動性が崩れたり、そればかりか、味方選手と味方選手が「かぶって」しまって、「お互いのスペースがない」ということも、よくあるのです。何も、味方同士で不仲で邪魔しあっているわけではないのですが、プレーエリアがある程度重なってしまうと、「味方がスペースを奪ってしまう」「味方のスペースを消してしまう」というわけです。そうなると、攻撃もスムーズにいかないばかりか、相手チームにつけ入る隙(=相手チームが使うスペース)を与えてしまうことにもなって決定的なピンチや危険な状態を生んでしまいます。

トータルフットボールにおける攻撃は、相手チームのバランスが保たれた守備網に対して、どうスペースを作るか、どうスペースが生まれるようにするかの仕掛けの連続です。サッカーでは、スペースが生まれたところから(そのスペースを使って)ゴールが生まれる可能性が大きくなります。そこで、トップ(FW=フォワード)の選手が、真ん中ばかりにいないで左右に開いたりしてスペースを作って、そこに2列目の選手が入っていく…なんていうのは、基本です。日本代表のFWで言えば、スペースの作り方・使い方が上手いなあと思わせるのは柳沢敦(鹿島アントラーズ)、献身的なスペース作りを見せるのが中山雅史(ジュビロ磐田)といった感じでしょうか。

その中山が絡んでスペースを見事に使った日本代表のゴールで最近最も素晴らしかったのが、先日のコンフェデレーションズ・カップのカナダ戦の2点目でした。中盤の深い位置で、中田と小野が相手のプレッシャーをいなしながらパス交換をしていました。そして中田がボールを持って丸く円を描くようなドリブル(時間のタメを作りました。そのほんのわずかな間に、中田は次の展開を描いていたのです)振り向きざま、左サイドのタッチラインぎりぎりに深くて速いロングパスを送り込みます。そのパスを必死に追いかけたのが中山。中山は、カナダ・ゴール前を横切るような大きなクロスボール(折り返し)を送りました。もう1人のFW西澤の頭を越すボールです。そのボールを、右サイドに空いたスペースに走り込んできた森島寛晃(セレッソ大阪)が中央に折り返し、カナダのディフェンスが森島の側に振られてできたスペースに西澤が走り込んでダイビングヘッドでゴールをあげた…というわけです。

一方でディフェンス(守備)側は、相手にスペースを与えないように、スペースを消そうとします。スペースを消すと言っても、人数をかけてピッチ(=フィールド)の中に散らばっても、あんな広いエリアをカバーすることは不可能ですから、そこで重要になってくるのが、次(そのまた次)に起こりうる状況への予知とか「読み」、迅速な判断や素早い対応であったり、「いつ、どこに動くか」「いつ、どうするか」という戦術眼であり頭脳(学習能力や、意図を持って考え続けられる力・姿勢を含めて)なのです(もちろん、体力・走力・スタミナも必要ですが)。

「スペース」をめぐる相手チームとの攻防、そして自分たちのチーム内での調整。個人の技量や、局面局面での1対1の戦いとともに、「スペース」の作り方、消し方、生かし方、使い方を、国内外の試合を見ながら楽しんで行きたいと思っています。
こうして「スペース」について見ていると、サッカーって、(「スペース」のことなんか特に)現代社会とか、会社とか、家庭内とかに、何だか似ていませんか。
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