『プロが明かす! デジタルコンテンツ業界で成功するための掟74』

あとがき(抜粋)


 かれこれ十年以上に及ぶ「この業界」での営みから学んだエピソードや教訓を、「掟」として書き連ねてきた。
 しかし私たちは、こうした教訓をことさらに強調して、デジタルコンテンツの仕事やマルチメディアの未来(マルチメディア業界の未来)を悲観するものではない。その未来に大きな期待と希望を抱くからこそ、今日あえて、こうした教訓を、デジタルコンテンツの仕事で成功するための「掟」として編纂したわけである。
 確かに、デジタルコンテンツの仕事やマルチメディアの業界は、その複雑な構造と歴史の浅さ、不安定さの故に、今日では問題の多い世界である。だからこそ、この仕事に、この業界に携わる者、関係する者たちが、お互いの誠意と信頼をベースとした「業界のルール」を醸成していくことによって、安定した、秩序ある、健全なる発展を遂げる世界になってくれることを確信している。
 とはいえ、これからも相変わらずエピソードや教訓は生まれ続けるだろう。そんなエピソードや教訓を集約し、お互いの自覚と反省と理解を促進して業界の「ルールブック」を構築していきたいと考えている。
 自分たちが学んだり、痛感したり、思い知った掟や教訓、同じ仕事に関わる方々に伝えたい掟や教訓を集約し、「この業界」が成長するための、ひいては「この仕事」をする人が仕事をしやすくなるための、ある種の「アーカイブ」を構築したいのだ。
 ところで、比較的早い時期からマルチメディアやデジタルコンテンツの仕事にねらいを定め、チャレンジと試行錯誤を実行してきた私のような者には、常に「これまでのメディアをもっと大事にすべきだ」「どうして、そんな新しいメディアに入れ込むんだ」「所詮、まだ商売にならないではないか」等々の反論が突きつけられ続けてきた。
 確かに、なかなかビジネスにはなりにくい。しかし、それは「従来の仕事」をしていても同じことである。どうせやるなら新しい可能性にチャレンジしたい。それが私の信念だった。もちろん、何も新しい仕事にだけウツツを抜かしてきたわけではない。「従来の仕事」も怠りなく営んできた。何も、いかにも新しげな、見てくれだけの、格好のいい仕事を選んだわけではない。「従来の仕事」にも人一倍精力を注ぎ、それに加えてマルチメディアや電子出版の仕事を立ち上げ、チャレンジしてきた。
 マルチメディアやデジタルコンテンツというものは、これまで脈々と営まれ築かれてきた、「従来の仕事」「従来のメディア」の存在があってこそ、今日あることは間違いないのだ。マルチメディアやデジタルコンテンツは、人類の進化の当然の産物として私たちの眼前に姿を現し始めた、ごく自然の風景なのである。
 メディアに関わる人々が、メディアの仕事に携わる人々全てが、「従来の仕事」「従来のメディア」と、マルチメディアやデジタルコンテンツを、区別や分け隔てなく、特別な意識なく考えられるようになる日が、一日も早く訪れることを、私は強く望んでやまない。その日こそが、マルチメディアやデジタルコンテンツの仕事が、真の意味で社会生活の中に根づいた証しと考えるからである。その日が訪れるまで、今日よりも少しでも安定した、秩序ある「業界」となっているように、マルチメディアやデジタルコンテンツの仕事に携わっておられる方々とともに、「この業界」の進化と成長に力を尽くしていきたいと考えている。

竹内 好