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パプリッシャーとしてのマルチメディアプロデューサーの確立をめざすMPUの活動
−出版産業におけるマルチメディアの現状と課題−(その1)
印刷・関連技術専門解説誌 印刷情報 1995年1月号:竹内 好
■売れない? CD-ROMタイトル

 1993年1年間で,日本においてCD-ROMタイトルは2,700本近くもリリースされ,その市場規模は800億円以上にも成長したと伝えられる(財団法人マルチメディアソフト振興協会編『マルチメディア白書1994』)。94年も,そのペースにさらに拍車がかかりこそすれ,いささかの衰えも見られない。
 マルチメディアソフト,あるいは電子出版といったときに,最近ではほとんどの人々がCD-ROMという「カタチ」を想起するようになった。6年ほど前からCD-ROMタイトルの企画制作発行を手がけてきた者にとって,確かに風土は変わりつつあることを実感する。出版産業においても,あるいは音楽,放送,映像などの既存メディア産業のいずれにおいても,である。
 だが,まだまだ現状は楽観的でない。率直に言って,現実にCD-ROMタイトルをリリースしても,1年間で3,000本も販売実績をあげられれば,それは随分と成績のいい方である。5,000本も10,000本も売れるのは,ごくごくわずかの例にすぎない。1年で数百本しか売れないタイトルもザラなのである。たいていは数年かかって,数千本を販売するのに四苦八苦する。5〜6年前にCD-ROM商品が日本に出現した当時と,実は事態はそんなに変わっていないのである。
 CD-ROMの規格が機種ごとにまちまちで,いつまで経ってもプラットフォームの標準化が実現しないこと。パソコンを含めCD-ROMプレイヤーがまだ高価で,一般家庭に普及するにはまだ時間を要すること。現状のCD-ROM流通ルートは,いわゆるパソコンショップルートが中心で,全国各地に無数に存在する書店やレコード店はまだマルチメディアショップ化しておらず,「どこでもCD-ROMタイトルが買える,見られる」状態になっていないこと等々,パブリッシャーにとって四苦八苦の状態がほとんど改善されないことの背景はいくつも考えられる。
 加えて,私たちが作り出しているタイトルが本当に出来がよく,新しい媒体であるというハンディを差し引いても大衆一般に受け入れられるだけのものをもっているか,ということも自らに問いかけてみることも必要だろう。


■CD-ROMタイトルはおもしろくない?

 現存するCD-ROMタイトルは,「マルチメディア」というトレンドワードを謳い文句にしている割におもしろくない。実際に企画制作している人間が,自信をもって既存メディアである「本」や「テレビ」「映画」「音楽CD」よりもCD-ROMの方が絶対的におもしろいと思えていないところに,現実の未成熟さが見て取れる。
 「大容量」と言うが,動画や音声を入れれば,実はそんなに大容量ではないのが現実だ。「検索性」と言うが,われわれ人類にとって使い慣れた本で調ベる方が,往往にして手軽で速いことが多い。CD-ROMタイトルをパソコンで見る(あるいはCD-ROMプレイヤーで再生してテレビをモニターにして見る)よりも,テレビ番組やレンタルビデオを見る方が一般的で楽しいのが,現代の慣習なのである。
 言ってしまえば,本やテレビやビデオや音楽CDを,まだまだマルチメディアソフトやCD-ROMタイトルは超えられていない,ということになってしまう。
 さらに,タイトル開発における不自由さは,オーサリング環境等の大幅な向上は認められつつも,まだパブリッシャーにとっては取り組みやすいものではない。社外の優秀な制作会社,プロダクションに制作開発を依託したとしても,なおタイトル開発の際の困難さは残されたままだ。


■マルチメディアに挑むパブリッシャー(出版社)の課題

 こうして考えてくると,マルチメディアソフトやCD-ROMタイトルでビジネスを構築しようとするならば,インフラの問題,市場形成の問題,内容や質の問題,タイトル開発工程上の問題など,いくつもの制約とリスクを承知の上で参入しなければならないのが現実だ。
 その一方で,時代の必然としての「新しい形態の出版物」の模索・追求・創造が求められている。CD-ROMタイトルの現状が決して楽観的でないレベルであっても,マルチメディア市場が本格的に開花しようとしていることは疑う余地がない。マルチメディア市場の開花は,従来のメディア産業に存在した業界・業種の壁や垣根を越えた「マルチメディア産業」の誕生をもたらすことになる。そして,そのようなうねりの中で,出版産業は大きな岐路に立たされていると言っても過言ではあるまい。拡大するマルチメディア市場の中で確固たる位置を獲得し,他のメディア産業と太刀打ちできる体制をつくりあげることは明白な緊急課題と言ってよいだろう。
 すでに音楽,放送,映像,出版,印刷,コンピュータ,そして必ずしも従来はメディア産業ではなかった企業・業種など,あらゆる産業が参入しているマルチメディア市場の中で,パブリッシャーである私たち出版産業はいかに立ち上がりビジネスを構築していけばよいのか。プロダクションでもデベロッパーでもないパブリッシャーにはエレクトロニクス技術があるわけでも,開発環境や開発スタッフを自社に抱えているわけでもない。あるのは,これまでの書籍や雑誌,ビデオ等々のコンテンツと,既存メディアのパブリッシング・ノウハウだけかもしれない。それも,既存メディアのパブリッシャーとしての実績がマルチメディアタイトルのパブリッシングにどこまで有効なのか。おそらくマルチメディアタイトルのパブリッシャーとしての力量は,既存メディアのパブリッシング能力と性質を異にするものではないのか。
 こうした現実の中,パブリッシヤーサイドのプロデューサーとしていかにマルチメディアビジネスを構築し,タイトル企画・制作・リリースにのぞんでいくか,そのあたりを自分たちなりに模索し探究し,プロデューサーとしての力量を自己育成していく……また,同じような環境の中で志と目標を共にするプロデューサーの仲間たちと相互協力,相互扶助していくことができないか……そのような思いが集まって,自然発生的に誕生したのが「MPU(マルチメディア・プロデューサーズ・ユニオン)」である。
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